JAXA理事岡田さん特別講演

「越えられない壁はない」H3ロケット開発秘話語る 2024年8月31日

開館25周年を迎えた佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》は2024年8月31日(土)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で国産新型ロケット「H3」に携わった岡田匡史さんの記念講演会をゆめぎんがプラネタリウムで開きました。H3の前プロジェクトマネージャーでJAXA理事の岡田さんは、9月12日の「宇宙の日」の記念特別講演会として「H3ロケットの挑戦」のタイトルで、1号機の失敗から2号機の打ち上げまでの紆余曲折のエピソードを話し、「越えられない壁はない」と経験から得た教訓を力説しました。

岡田さん

 講演に先立ちJAXAの広報部長だった鈴木明子ゆめぎんが館長が「生粋のロケット野郎で人情肌の岡田さんに、苦難の道のりをたっぷり話していただきます」とあいさつしました。「宇宙はどんどん身近になってきた」と切り出した岡田さんは「ロケットは巨大加速装置」ととらえ、まず第1段ロケットのLE-9エンジンで直面した技術の壁について話しました。「エンジンの中で何が起こっているのか、もう一度調べた。起こっている現象を分かり抜くこと。焦っちゃダメ」「分からないことを『これでいいや』で、済ませず、技術には技術で立ち向かう」と焦らず妥協しない姿勢の大切さを説きました。

 

1号機の打ち上げは2023年3月。発射は第1段ロケットで順調に軌道に乗り、いよいよ第2段エンジンが着火というタイミング。点火しません。電気系統に問題がありました。軌道に乗る見込みがないことから、地球観測衛星「だいち3号」を搭載したロケットに破壊信号を送りました。

 

なぜ失敗は起きたのか。原因究明にさまざまなシナリオを洗い出し、3つの原因に絞り込みました。先代のH2ロケットと共通の機器があり、使い続けることの難しさと、複雑になったシステムで動作をすべて理解することの難しさを痛感しました。

 

2月の打ち上げ中止に続く3月の失敗。2023年の夏は出口の見えない夏になりました。小型月着陸実証機SLIMの打ち上げを控えていたため、2カ月で対策を決めて臨みました。「大切なだいち3号を失い、宇宙計画を台無しにしてしまった」「いよいよという出番が絶たれ、失敗の渦中にある」。それでも「立ち止まれば日本の宇宙の未来はない」と全員が前を向いていました。失敗には良い失敗と悪い失敗があり、失敗はエンジニアを強くします。迷っても仕方ないことは迷わないと、言い聞かせ、次の勝負が始まりました。


2号機の打ち上げは2024年2月。だいち3号を模したダミー衛星を載せ計画通りに進みました。7月に打ち上げた3号機では「だいち4号」を宇宙に届けられました。越えられない壁はありません。失敗の後に届いた励ましの声をかみしめました。「夜明け前が一番暗い」「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ」「愛と希望と勇気、忘れちゃいけない心のゆとりとコミュニケーション」。ロケットエンジニアの燃料はみなさんの励ましの声です。

 

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https://www.jaxa.jp/projects/rockets/h3/index_j.html